
ドイツ人はなぜ残業をしないのか? ワークライフバランスを大切にする働き方はこうやって実現される。
目次:
1.1. 残業代が出ない
1.2. 社員の仕事が明確に決まっている
1.3. コンプライアンスを重視する
2. フラットな人間関係
3. 働く環境がとてもドライ
4. 仕事はライフ形成の一部
5. いつでもどこでも家族優先
ドイツ人の働き方を考察する
コダモンです。
最近日本へ出張する機会がありました。
日本の顧客や同僚の働き方を久しぶりに見て、「みんなよくもまぁこんなに働くなぁ…」と、あらためて思った。
勤勉で忍耐強い日本人。
しかし…。その真面目さのおかげでなかなか残業は減らないし、仕事に明け暮れて有給休暇を取らない人もいる。
日本で法人営業をしていた当時、顧客側も社内の人間も、定時が過ぎてもいつまでも働いている現場を目にしました。21時を過ぎても電話がかかってきたり、休日にもメールが飛んで来たり。
そして、さらにそこに日本独特の「集団意識」や「助け合いの精神」が加わる。「今までみんなやってきた働き方なんだから!」とか、「みんな残業してるんだから、あなたも!」みたいな考え方です。
それらが全て見事に融合されて…。その結果が働き過ぎの企業文化。
ストレス大国ニッポンの出来上がりです。
何はともあれ、まだまだ前途多難な「日本の働き方」ですが、昨今は売り手市場も手伝い「ブラック企業」がのさばるような暗黒の時代は、そう長くは続かないでしょう。社会全体の傾向としては、確実に良い方向に向かっています。
そんな中、わたくしコダモン。ドイツの大学を卒業してから、日本で日系企業に4年半就職。そして、今はドイツでドイツ企業に勤めています。
両方の国で社会人を経験して、その「働き方」を比べてみると…。
日本人はドイツ人より確実に多く働いている
ほぼ断言できます。
役員レベルなどのマネジメント層については知りませんが、上司を含めた部長クラスまでの働き方を比べると、絶対にドイツ人より日本人の方が多く働いている。
かくいう自分も、日本で働いていた時の残業時間の方が圧倒的に多かったし、単純に「仕事のストレス」が日本の方がヤバかったです。
「上司が、お客さんが、納期が…」 アワワワワ
カイシャでの大小様々な仕事が全てストレスだし、常に目に見えないプレッシャーが存在する。マジで疲れました。仕事は増える一方だったし。
そのような日本の働き方は、おそらく今後も「ゆっくり」としか改善されない。
そのため、まずはドイツに焦点を当てて、「グローバルスタンダードな働き方」がどのようなものかを学びましょう。
1. 残業は基本的にしない
まず、ドイツ人は基本的に残業をしません。
よく「ドイツ人も残業をする!」とか「ドイツ人が残業しないなんてウソ!」みたいな投稿を目にしますが…。まぁドイツ人もたまーに残業はします。でも、基本的には残業をしていません。
これは、見聞きした話などではありません。今現在働いているドイツのオフィスからの中継リポートです。彼らは残業を“ほぼ“していません。
仕事が比較的忙しいと言われる「製造業の分野」で働いていますが、営業もエンジニアも、みんな基本的には毎日定時に帰宅しています。
その主な理由は次の3つです:
1. 残業代が出ない
これは労働時間が貯蓄できる制度からも来ているのですが、ドイツには残業がたまったら「有給休暇」として取得できる制度があり、ドイツ人の多くがこの制度の元で働いています。残業した分だけ別日に「早あがり」できる会社もある。この制度においてはそもそも残業代という割増賃金が発生しないため、社員が「長時間労働で稼ごう」とするような不効率な就労を無くします。同時に、「お金にならないならやらない」という単純な理由からも、残業をするメリットが無いのです。
2. 社員の仕事が明確に決められている
欧米諸国では労働者に提示する“JD” (Job Description = 職務記述書)というものがあり、その中で社員の裁量とポジションに沿った「明確な業務内容」を決めます。そして、その内容は定時に終わる範囲内の仕事量となっている。残業をしない前提での職務内容がしっかりと合意されているのです。そのため、逆に言えばドイツではたくさん残業をしていると「仕事ができない人」のレッテルを貼られます。残業をしていると「頑張っている」どころか、マイナス評価につながるケースもあるのです。
3. コンプライアンスがとても重視されている
職務記述書の内容は交渉次第で変更できますが、必ず「ポジション相応の適宜な仕事量」である必要があります。その理由はカンタンで、ドイツでは労働時間が厳格に管理されているからです。同時に、産業別労働組合の力がとても強い。法定労働時間を超えて残業させた場合はもちろん罰則があるし、最悪の場合は労働者によるデモやストライキに発展する可能性もある。労働時間に非常に敏感な社会となっており、それを遵守しない事は企業にとってはリスクでしかないのです。
このように、ドイツは労働時間にとても厳しい。そのため、ドイツ人にとって残業は「当たり前では無い」のです。
ドイツでは、労働時間を柔軟に割り振って効率良く働くという考えがスタンダード。
早朝に出社して夕方の16時に帰宅するような時間配分で働く人も、たくさんいます。
残業をする時は、あくまで突発的なトラブルや緊急の課題が発生する場合が多いです。慢性的に残業している人は、もちろんいない。
企業や業界によっては例外もあるのでしょうが…。ドイツ人は基本的に残業をしないのです。
2.フラットな人間関係
ドイツの職場はとても風通しが良く、本当に働きやすい環境です。
オフィスでは、どこからともなく笑い声が聞こえてきたり、仕事の合間にリラックスして談笑する人もたくさんいます。
実際に働いていると、「昨日のサッカーの試合見た?」などの話題で上司とみんなで盛り上がっている事はしょっちゅうあります。
ドイツ人は、決められた仕事を時間内にこなす必要があるため (残業をしないため)、確実に忙しい。それでも、その合間合間にリフレッシュする事を怠らないのです。
そして、そこには年功序列の上下関係がない。
あなたが年上でも年下でも、関係ナシ。
実力主義で成果主義の世界なので、上司が自分より年下だったなどというパターンも多くあります。
そんな中で、お互いを「下の名前」で呼び合いながら仕事をするシーンをたくさん見かけます。
よっぽどランクの違う上司であったり、普段関わる事のない上司などには敬語を使いますが、基本的には社内のコミュニケーションはフラットな関係で成り立っています。
そのため、勤続年数がムダに長いだけで幅を利かそうとする人もいないし、「お局」みたいなジメジメした存在の人も少ない。年功序列の考えが無いので、「できる人」がどんどん評価される世界です。
「新入社員はまず下積みが大事だ!」…などと言ったりする、時代遅れなアタマの持ち主もいない。入社時点から、社員はみんな即戦力です。
給与の査定に関しても、勤続年数などは関係なく、あくまでも社員一人一人のアウトプットが基準になります。
そのような労働環境の中、全てが個人の裁量に任せられます。結果さえ出ていれば誰も自分の仕事に対してとやかく言う人はいない。
ドイツの職場の「フラットな人間関係」は、仕事の質だけを追求する組織体制から成り立っているのです。
3. 働く環境がとてもドライ
ドイツの職場には年功序列が無く、また各々の業務内容も明確であるため、社員同士の付き合いも非常にサッパリしています。
相手が古参の社員でも、そこには上下関係が存在しないので、そのやり取り一つ取っても「シンプル」なのです。余計な礼儀作法は無いし、誰もがあくまで効率良く働こうとします。
ドイツ企業は個人主義と実力主義で成り立っていますが、同時に社員一人一人のアウトプットを最大限に活かすためにチームワークを重視します。
ここでいうチームワークとは「全体最適」を目指すためです。「周りと足並みを揃える」ためにチームがあるのではありません。
仕事で結果を残すために、また自分の昇級昇給のために。チームの中で「個々の役割分担を全うする事」が重要視されます。
あくまで結果を出すためにチームワークという結束がある。
このような組織体制が何をもたらすかというと…。
働く環境がとてもドライになるという事。
社員はみな基本的に個々の業務範囲内の仕事に没頭しており、それ以外については「われ関せず」です。
日本のカイシャのように、「みんながルールに従うから私も…」とか「みんなが残業するから私も…」というような集団主義の考えを、ドイツ人は持ち合わせていない。
「カイシャのため」とか「部署のため」みたいな自己犠牲の精神もない。
ドイツ人は風邪をひいたらいくらでも休むし、「熱が出てもカイシャに来て」みたな根性論は彼らには全く通用しません。
企業に対しては契約書に則った仕事をこなし、就業規則を守りながら、その対価として給料をもらう。ただそれだけ。
彼らが企業に属する姿勢は、とってもシンプルかつ合理的なのです。
上下関係もサッパリしているので、日本によくある半ば強制のような飲み会も存在しないですし、上司や同僚の顔色を伺いながら残業するような人もいない。
その反面、仲が良い同僚同士は飲みにも行くし、もっと親密になれば家族レベルでの付き合いもある。
「仕事以外の余計なストレス」を極力少なくするのも、ドイツ人の働き方の特徴です。
4. 仕事はライフ形成の一部
ドイツ人は、企業に対する「帰属意識」がありません。
日本でよく見られる「自分は○○社の人間」などというステータスに、まったく興味がない。
ドイツ人にとっては、自分が働く先の会社というのは「出社して仕事をして、サラリーをもらうところ」。それ以上でも、それ以下でもありません。
自分のスキルや仕事に誇りを持ち、才能を発揮して働くドイツ人。そこには達成感や喜びがあるでしょう。しかし、それと「仕事をする目的」は別の話です。
ドイツでは働くことが「楽しい」という人と同じくらい、その目的を「お金」と豪語する人が多い。そして、それが自然なのです。
日本ではそれが、「やりがい」とか「生きがい」などと言って、美化されがち。
「働く目的は何?」という問いに対して「お金」と率直に答える事が、あたかも悪い事であるかのような風潮が、日本にはあります。
同時に、人生の大半をカイシャと仕事に傾倒するあまり、「カイシャ以外に行き場が無い、拠り所がない」と言うビジネスパーソンが多いのも、日本の特徴だと思います。
そのような人生観を持たないのが、ドイツ人。
職場で充実した毎日を過ごす人もたくさんいるでしょうが、それはあくまで「適宜な給与と待遇」があって初めて成立する話です。
ドイツ人にとっての人生の基盤は、会社以外にあります。
それは自己実現と家族の存在です。
自分の趣味と余暇の時間の確保のために働き、お金を稼ぐ。
家族を幸せにするために働き、お金を稼ぐ。
残業時間が短いほど、オフィスでの時間が短ければ短いほど、ドイツ人にとってはその一日が「成功」なのです。
やる事をやったら、あとはさっさと帰宅して大事なもの・人のためにたっぷり時間を使う。
そのように仕事と私生活をキッチリ分ける事が、ドイツ人の健全な働き方です。
5. いつでもどこでも家族優先
ドイツハーフでもある、わたくしコダモン。
日本で働いていた時は、自分の時間をたくさん犠牲にして、時には仕事のプレッシャーに負けて…。プライベートでは、周りの人間を不幸にしていた時期もありました。
ズブズブな日本的な働き方を続けていたら、そのストレスまみれの生活から抜け出せなくなっていたのです。まさに社畜…。
それでも、長い海外経験から「何かが違う…」という意識は常にあり、当時はずーっと納得がいかないまま働いていました。
半分ドイツ人な頭も手伝って、「日本の働き方は何かがオカシイ…」と思っていたのです。
その後ドイツでドイツ企業に転職してからは、ドイツ人の「ワークライフバランスを重視する働き方」を久しぶりに目にして、日本との違いに衝撃を受けました。
「早く帰れよー」と言いながら夕方に帰宅していく上司
17時を過ぎると既にガラガラになっているオフィス
30日間の有給休暇を全取得できる職場環境
日本のカイシャに属していた時とは180度違う世界が、そこにはありました。
そして、そんなドイツ人の働き方の根底には、いつでも「家族優先」の考えがあります。
家族との時間を作るために残業をしないドイツ人。
家族と旅行に行くために長期休暇をまとめて取得するドイツ人。
忙しい毎日の中でも心身のリフレッシュをする事。家族との時間を十分に設けることが、ドイツ人のスタンダードな働き方なのです。
まさにワークライフバランスを重視した働き方。
「奥さんは元気か?」とか、「今週末は息子さんの誕生日だね」などと、お互いにまず家族の話題で盛り上がるのも、ドイツの職場では見慣れた光景です。
また、「娘が熱を出したから」と言って、朝から病院に付き添った後にそのまま帰宅し家から働いたりするのも、ドイツ人の「仕事」と「組織」に対する柔軟な考えがなせる技。
自分の大切な家族を幸せにするために、ドイツ人は今日も働きます。
いかがだったでしょうか。
日本は経済的に豊かになり、職業の選択や生き方も自由になりました。
自分に向いている仕事、やりたい仕事を選べる時代にもなったのですが…。やっぱりまだまだドイツの働き方からはほど遠いです。
年功序列と古い慣行が残っているせいで、カイシャでの「仕事とは関係ない余計なストレス」も多い。そして、それが余暇の取れない「働きすぎの企業文化」につながっています。
勤勉でよく働く日本人。そのような国民性が、いわゆる団塊の世代が担っていた高度経済成長を支えてきました。
過去の産物になりつつある終身雇用を前提に、「自分は一生このカイシャで働き続けるんだ…!」といって頑張り続けて来た、日本の会社員たち。
しかし、時代は移り変わり、グローバル化が進む中、そのような姿は「働きすぎ」といわれる日本人像として定着してしまった。
昨今の柔軟な思考を持った日本の若者たちには、ひと昔前までは当たり前だった根性論や忍耐論は、もう通用しません。
「残業が当たり前」ではなく、「定時帰宅や有給休暇の全取得が当たり前」と考える、若い世代。
彼らの仕事に対する考え方と姿勢は、「イマドキなスタイル」などではなく、グローバルスタンダードに準じた「これからの当たり前」なのです。
コダモン
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